アイアンのなかには、軟鉄鍛造(なんてつたんぞう)アイアンと呼ばれるクラブがあります。
名前を聞いたことはあるけど、どんなアイアン?
上記のように思われる方も多いでしょう。
軟鉄鍛造アイアンはマッスルバックアイアンとも呼ばれ、一枚板の形状をしたアイアンのことです。
この記事では、キャビティアイアンと何が違うのか、製造方法や軟鉄鍛造アイアンを使うメリット・デメリットについて解説します。
この記事でわかること
- 軟鉄鍛造アイアンの作り方
- フォージドアイアンとは何が違う?
- 軟鉄鍛造アイアンを使うメリット・デメリット
- 初心者でも使えるの?
できるだけわかりやすく説明しますので、どうぞ最後までお付き合いください。
軟鉄鍛造アイアンとは?
軟鉄鍛造アイアンは一言でいうと「材料(軟鉄)を叩いて作るアイアン」です。
アイアンにはキャビティアイアンや中空アイアンと呼ばれる、さまざまな種類のモデルが販売されています。
軟鉄鍛造アイアンもそのひとつに含まれ、一枚板のようなシンプルなデザインをしているのが特徴です。
軟鉄鍛造アイアンがそのような形状になっているのはなぜか。
結論を言うと「複雑な形状が作れない」からです。
鍛造アイアンは、材料である鉄の棒をアイアンの形をした金属(金型)にセットし叩いて形を整えます。挟むように作るため、キャビティアイアンや中空アイアンに見られるくぼみや内部が空洞になっている構造のアイアンは作れません。
キャビティアイアンは別の製造方法が用いられいるように、軟鉄鍛造アイアンにも独特の製法が存在します。
軟鉄鍛造アイアンがどうやって作られているか。
鍛造製法に触れる前に、まずはアイアン自体の製造方法について説明していきます。
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アイアンの作り方は1種類ではありません。
アイアンの製造方法は2種類ある
すべてのアイアンは、元になる金属素材を利用して作ります。
製造方法は2種類。
ポイント
鍛造(たんぞう)製法
鋳造(ちゅうぞう)製法
上記の製造方法が用いられ、鍛造は「叩いて作る」アイアン、鋳造は「溶かして作る」アイアンを指します。
鍛造アイアンは、金型にセットして叩いて作る製法です。
マッスルバックアイアンのように、板状が特徴で叩いて作るため、内部も金属密度の濃いヘッドができあがります。
一方キャビティアイアンは、その形状から材料を溶かして作る「鋳造」でないと作れません。
鍛造のように、金属を叩くと隙間が段々となくなってしまうので、くぼみや中空構造を作るのが物理的に不可能なためです。
鋳造法では金属を溶かすことで自由な形状が作れます。
ですので、キャビティアイアンのような複雑な形を作るクラブに向いているわけです。
想像しやすい製品でいうと、包丁や日本刀も鍛造で作られています。
鍛造アイアン=フォージドアイアンとは限らない
鍛造アイアンは、フォージドアイアンと同じクラブだと一般的にはいわれています。
しかし厳密にいえば、現在販売されているフォージドアイアンがすべて、純粋な鍛造製法で作られているアイアンとはいえません。
なぜなら、アイアンの一部に鍛造部品が使われていれば、フォージドアイアンと名乗れるからです。
鍛造アイアンといえば板形状が特徴ですが、実はキャビティアイアンの中でも鍛造アイアンと呼べるクラブが存在します。
製造上、不可能なキャビティアイアンでなぜフォージドアイアンが存在するのか。
それは「フェース部分とボディ部分が分割して作られている」ことが理由です。
クラブの製造過程においてフェースとボディを組み合わせる製法が確立され、以前のような板状のアイアンだけを鍛造(フォージド)とは呼ぶことはなくなりました。forgedと刻印されているアイアンの中にも、異なる素材で組み合わせたクラブも、鍛造アイアンに含まれるようになったのです。
異なる金属での製法が可能になったことで、反発係数の高い金属の使用して飛距離の出るアイアンが開発されるようにもなりました。
一般的な鋳造・鍛造アイアンの違い
製造方法 | 特徴 | アイアンの種類 |
---|---|---|
鍛造(たんぞう) | ・叩いて作る ・柔らかい ・ヘッドが板形状 | ・マッスルバックアイアン ・一部のキャビティアイアン |
鋳造(ちゅうぞう) | ・複雑な形状が作れる ・硬い金属が使える ・軽量化しやすい | ・キャビティアイアン ・ハーフキャビティアイアン ・ポケットキャビティアイアン ・中空アイアン |
軟鉄鍛造アイアンに使われている金属は?
続いて、軟鉄鍛造アイアンに使われている金属を紹介します。
軟鉄鍛造アイアンには使用されている金属はなにか。
元となる金属には「炭素量の違う鉄」が使われています。
軟鉄鍛造アイアンには軟鉄と呼ばれる金属が使われていますが、実は1種類だけではありません。
軟鉄は鉄に含まれている炭素の量で種類が分かれ、鍛造アイアンではおもに「S20C」と「S25C」の2種類がおもに使用されています。
素材(JIS規格) | 炭素含有量 | 硬さ |
---|---|---|
S20C | 0.20% | 柔らかい |
S25C | 0.25% | 硬い(S20Cに比べて) |
S20CはS25Cに比べて、炭素の量が0.05%低い金属です。
そのためS25Cより柔らかい鉄となり、理論上はインパクトの打感も柔らかいことになります。
ただし硬さを判断できる人は少ないでしょう。打ち比べればある程度わかるかもしれませんが、微妙な硬さについては日頃から打ち込んでいる人でないと、難しいのではないかと個人的には思います。
打感に関しては「個人の感覚」で変わるのではないかと考えています。
鍛造アイアンの好き嫌いに対して打感を理由に挙げる人もいるため、試打からの購入を検討したほうがミスマッチ防止にもつながるでしょう。
メーカーのスペック表では使用素材が確認できるので、気になるアイアンがあれば、公式サイトにて確認してみてください。
「軟鉄のちょっとだけ専門的な話」
・軟鉄(S20C、S25C)はS(鋼)のなかにC(炭素)が0.20~0.25%含んだ合金素材
・炭素の含有量で金属の性質は変化する
・軟鉄鍛造アイアンには炭素が少なく、柔らかい低炭素鋼が使われている
※S(Steel)→鉄(元素記号Fe)を主成分とした合金
※C(Carbon)→炭素
※SS→ステンレス+スチール(SS400は炭素含有量0.16〜0.2%)
軟鉄以外の材料もある
鍛造アイアンの材料には、フォージドアイアンの章で述べたように、複合金属の使用が増えてきています。
飛距離の追求を考えた場合において、鉄とは異なる金属の使用は必然的な流れといえるでしょう。
鍛造アイアンは基本的に軟鉄(S20/25C)を使用していますが、フェース面には硬い金属であるステンレスやマレージングを組み合わせるケースもあります。
材料 | 特徴 | 使用箇所 |
---|---|---|
軟鉄(S20/25C) | ・耐久性がある ・加工しやすい | ・ヘッド |
ステンレス(SS) | ・軟鉄、クロモリより硬め | ・ボディ ・フェース |
タングステン | ・重量がある ・ヘッド重量のバランス用 | ・ソール ・トゥ |
マレージング | ・ステンレスより硬め ・素材は高価 | ・フェース |
クロモリ | ・軟鉄より硬め | ・フェース |
チタン | ・強度があり、鉄より軽い | ・ボディ ・フェース ・コア部分 |
ボール初速を速くするためには、ステンレスやマレージング、チタンが多く使われています。
軽量化や重心バランスを整えるために、タングステンを使うこともあるようです。
上記のようなさまざまな金属を用いることで、これからの鍛造アイアンもまだまだ進化をしていくものと考えられます。
軟鉄鍛造アイアンの作り方
ここからは、実際に鍛造アイアンがどのような製造方法で作られているのか見ていきます。
動画で見たい人は下記の参考動画からどうぞ!
アイアンの製造工程
工程1:材料(丸棒)の加熱
軟鉄は最初、丸棒の状態になっています。この丸棒を適当な長さに切断し、加熱します。
加熱温度は約1,200℃。
鉄が溶ける寸前まで加熱することで、叩きやすい硬さまで柔らかくなります。
工程2:粗鍛造(あらたんぞう)と余分な部分をカット(トリミング)
加熱された軟鉄をヘッドの形をした金型に載せ、プレス機械で3回にわけて叩きます。
徐々にアイアンの形に近づけたら、ヘッドの余分な部分を別のプレス機械でカットします。
工程3:精密鍛造
プレス機械で行う最終鍛造です。
カットしたヘッドを空気で自然冷却後、900℃まで加熱し、300tのプレス機械で叩きます。
この工程でヘッド内部が密になり、金属組織が均一になります。
工程4:刻印
鍛造されたヘッドにスコアラインや商品名を刻む工程です。
ここでもヘッドが動かないよう金型に載せたあと、油圧プレスで打ち付け(打刻し)ます。
工程5:ホーゼル圧着
ヘッドをホーゼルにつける工程です。
固定したヘッドに高速回転させたホーゼルを摩擦熱で圧着します。高温で溶け合いながら圧着するので、人の手で溶接させるよりも正確に短時間で行えます。
工程6:粗研磨
ホーゼルとの溶接部分やヘッドの余分な部分を削ります。
工程7:カスタム加工
ロフト角の調整など、個人の希望に合わせてヘッドのカスタム加工を行います。
工程8:バレル研磨
三角形の大小さまざまな研磨石と研磨剤を使用して、回転させながら表面を滑らかにします。この工程を踏むことで磨き研磨の時間が短縮し、メッキものりやすくなります。
工程9:磨き研磨
粒度の細かいペーパーによる研磨作業です。
形状を整えながら、表面を磨いていきます。
工程10:サンドブラスト
スコアラインやバックフェース部分に砂を吹き付けて表面を整える工程です。
ほかの部分と視覚的に区別できるため、作業後は見え方がはっきり変わります。
工程11:メッキ工程
クラブが錆びないようにメッキ処理を行います。
自社で行うか、外注するかはメーカーにより異なるようです。
工程12:「塗装」
番号やロゴ部分に色塗りを行います。
上記の工程を経た後、シャフト・グリップの組付け、バランス等の最終チェックをクリアした製品のみが市場に出荷されます。
アイアンが完成するまでは、思ったよりも多くの工程が必要です。
1g単位で統一された重量、誤差が生じないロフト角やライ角など、品質を保った状態で仕上げなければなりません。
製造工程を見るだけでも多くの作業を経て出荷されるだけに、そこからはメーカーのたゆまぬ努力がうかがえます。
鋳造アイアンは作り方が違う
鋳造アイアンの作り方を簡単に解説します。
鋳造は、金属を溶かして狙った形状に整える製造方法です。
アイアンの鋳造法には型にロウを使用して作る「ロストワックス製法」が用いられています。
ロストワックス製法ではロウでアイアンの形を作り、型で周りを囲んだ後にロウを溶かして空洞状態を作ります。その空洞部分に溶かした金属を流し込むことで、アイアンの原型ができる製法です。
溶けた金属は1300℃以上になるので、温度が鍛造より高くなる点が違いといえます。
金属が固まった後の製造工程は、鍛造と同じです。
ボディ部分を磨いたり、サイズを調整したりして完成へと至ります。
ゴルフクラブではありませんが、ロストワックス製法の動画を載せておきますので、参考にしてください。
同じアイアンでも、鍛造と鋳造はだいぶ違う作り方といえますね。
軟鉄鍛造アイアンを使う「メリット」と「デメリット」
上級者向けといわれる鍛造アイアンですが、やはり扱いが難しいクラブなのでしょうか。
鍛造アイアンのメリットとデメリットを比較しながら、確認していきたいと思います。
軟鉄鍛造を使うメリット
まずはメリットから。
鍛造アイアンには、ゴルフを上達させるためのヒントも含まれているので、その点にも注目していきましょう。
軟鉄鍛造アイアンのメリット
- ライ角やロフト角の調整がしやすい
- 打感が柔らかい
- 操作性がよい(曲がり幅の調整がしやすい)
- 芝から抜けやすい
ライ角やロフト角の調整をしやすい
軟鉄鍛造アイアンは鋳造アイアンと違い、曲げやすい性質を持ったアイアンです。
軟鉄は素材が柔らかく、角度を曲げる際にも組織が破壊されずに、意図した方向へ曲げられるメリットがあります。
一方、鋳造アイアンは軟鉄で作られていないため、曲げようとする力に耐えられません。
過剰な負荷には耐えきれず、一定の力を受け続けると折れてしまうでしょう。
もし、合わないアイアンがある場合、身長や腕の長さに合わせて角度調整ができる鍛造アイアンを検討してみてはいかがでしょうか。
打感が柔らかい
軟鉄鍛造アイアンでは、インパクトの打感が鋳造アイアンよりも柔らかく感じる傾向にあります。
理由は、素材の硬さにあります。
軟鉄はインパクト時の衝撃に対し、ステンレス製の鋳造アイアンよりも柔らかく感じます。
柔らかく感じることがなぜメリットかというと、ボールスピンや方向性をコントロールしやすくなるためです。
硬すぎると、微細な手の動きがなかなか伝わりません。
柔らかな感触を味わえるのも、鍛造アイアンの特徴です。
操作性がよい(曲がり幅の調整がしやすい)
軟鉄鍛造アイアンは、ボールコントロールがしやすいとされています。
理由は「ヘッドが小さい」ためです。
ヘッドが小ぶりになっていることで、フェースの開閉がしやすくなります。
これには慣性モーメントが関係しており、値が高ければ高いほど、自然にフェースが閉じるようになります。
逆に慣性モーメントが低い場合は、フェースの閉じ開きがオートマチックに動きません。
自分でフェースコントロールを行う必要があるので、スピン量を調節など、微妙なコントロールができるわけです。
上級者が鍛造アイアンを好む理由には、ボールコントロールが関係することがわかりますね。
慣性モーメントはまた別の機会に詳しく解説します!
芝から抜けやすい
ヘッドが小さいため、芝の抵抗も受けずに振りぬきやすいことがメリットとして挙げられます。
芝から抜けるにはいくつか条件があります。
- ソール幅が短い
- インパクトの入射角度が適正
上記の条件を満たすと、芝の抵抗をそれほど受けません。抵抗が少ないため、ヘッドが大きいキャビティアイアンよりも脱出しやすいといったメリットがあります。
軟鉄鍛造を使うデメリット
鍛造アイアンのデメリットとして、上手く打てない点が挙げられます。
軟鉄鍛造アイアンのデメリット
- ナイスショットを打つのが難しい
- 飛距離がキャビティより落ちる
上記の理由から、初心者が扱うには難しいことがわかります。
ナイスショットを打つのが難しい
ヘッドが小さく、スイートスポットが狭いので、単純にナイスショットの確率が下がります。
前述の操作性でも取り上げていますが、そもそもヘッドが小さいため芯に当てづらく、安定したショットが打てません。
飛距離や方向性が安定しないとスコアもまとまらないので、ゴルフ初心者が扱うには難しいのではないでしょうか。
飛距離がキャビティより落ちる
軟鉄鍛造アイアンは、キャビティアイアンよりも飛距離が出ません。
理由はヘッド形状にあります。
キャビティに代表されるヘッドの大きいアイアンは、ミスヒットしても飛距離があまり落ちない「寛容性」に優れています。
そのうえ軟鉄鍛造アイアンより軽量なので、シャフトを長くしてヘッドスピードを伸ばすことも可能です。
軟鉄鍛造アイアンはヘッドが小さく薄いため、ダウンスイングでクラブが立ちやすい傾向にあります。
そのためインパクトで打ち出し角が低くなり、ヘッドスピードが速くない限りボールも失速してしまうでしょう。
軟鉄鍛造アイアンは重量と形状の関係から、力のある人や上手く芯に当てられない人でないと、飛距離が出ない仕様といえるのです。
軟鉄鍛造アイアンは上手くなってからのほうが楽しい
軟鉄鍛造アイアンは鉄棒から作られ、完成までにかかる10項目以上もの工程がかかるアイアンです。
近年の鍛造アイアンは、フェースが別の複合素材からなるなど、打感や形状もさまざまです。
初心者が打つには難しい反面、ボールコントロールができるようになると、ゴルフの楽しさも倍増するでしょう。
90を切るぐらいのスコアが出せるようになれば、軟鉄鍛造アイアンを検討するのもいいかもしれませんね。
大手メーカーから地クラブメーカーまで、こだわりの鍛造アイアンは数多く販売されていますので、ぜひ自分だけのアイアンを探してみてください。
参考サイト
世界特許を持つミズノの鍛造工場に潜入取材! フォージドアイアンの伝統と進化をこの目で見てきた - ゴルフ総合サイト ALBA Net
Grain Flow Forged│ゴルフ│ミズノ (mizuno.jp)
「軟鉄」はもはや少数派? ギア好きなら知っておきたい素材のお話<アイアン編> – Myゴルフダイジェスト (my-golfdigest.jp)